変形性膝関節症について

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変形性膝関節症の治療法〜整形外科医が重視するのはこんなこと〜

RELEASE:2018-12-18
UPDATE:

この記事をご覧になっている方には、既に変形性膝関節症という診断を受けた方もいらっしゃると思います。病院を受診したきっかけは、膝の痛みだったのではないでしょうか。

痛みは大きな障壁です。「長時間歩けないので旅行が楽しめなくなった」とか「しゃがむのがつらく、ガーデニングができなくなった」といった嘆きの声はよく聞かれます。そうした状況から抜け出すためにも、どんな治療をどう進めていくのか、早めに知っておく必要があるでしょう。

変形性膝関節症の治療法は、大別すると保存療法と手術療法の二つ。整形外科医は様々なことを勘案しながら治療を提案していくわけですが、その中で特に重視していることもお伝えしたいと思います。

治療法を考える一般的な目安

変形性膝関節症の治療法を考える目安として、重症度を示すグレードという指標が用いられます。これは膝関節の状態をX線(レントゲン)写真によって判断する4段階の指標。1が予備軍、2が初期、3が進行期、4が末期を意味します。

[詳細]変形性膝関節症の重症度(グレード)はどう決まるか?

変形性膝関節症の進行度を示すグレード

治療法の考え方については、初期から進行期までが保存療法の適応、進行期から末期にかけてが手術療法を検討する目安とされています。保存療法とは手術以外の治療法のことで、6ヶ月間の保存療法で症状の改善が見られない場合も、手術療法が検討されることが多いでしょう。

ここで注意が必要なのが、グレードや保存療法の継続期間は絶対的なものではないということ。あくまで指標としては有用ですが、治療法を決定づけるものとは考えていません。では、何が大切なのか。保存療法と手術療法、そして新たな選択肢である再生医療の概要とともに、整形外科医が重視していることをお話していきます。

一つアドバイスとして、病院での診察時にレントゲン画像を携帯のカメラなどで撮影し、手元に残しておくとよいでしょう。患者さまがご自分で病状を把握できますし、これから治療を進める中で、万が一「効いていないかもしれない」と感じたとき、スムーズにセカンドオピニオンを求めることも可能になるからです。私がこれまで診察を行ってきた中で、患者さまが希望された場合、もちろん快諾していました。それが安心材料になるのではないかと考えています。

まずは保存療法の可否を考える

変形性膝関節症の初期には、軽微な痛みや違和感こそあれ、病院の受診を急がせるほどの症状が出ることは稀です。痛みや腫れが顕著な場合、ある程度まで病気が進行している可能性も考えられます。また高齢の方は痛みを我慢してしまう傾向が強く、末期になって初めて病院を受診される患者さまも少なくありません。

初期や進行期ならば、保存療法で経過をみることが多いでしょう。ただ、初診時に末期と判明した場合であっても、整形外科医としてはまず、保存療法による治療の可否を考えます。その理由として挙げられるのが、手術には身体への侵襲(負担)が伴うこと、手術を受けたくない患者さまが非常に多いことなど。病気が進行してしまい、手術以外に手段がなくなるのを避けたいという方は、ぜひ保存療法に注力していただきたいと思います。進行のスピードを遅らせる意識こそが、この病気の治療において非常に大切なことなのです。

メインは運動療法

保存療法の中でも、運動療法は極めて重要。特に、太もも前部にある大腿四頭筋の訓練は必須です。膝周りの筋肉は関節にかかる負荷の吸収、膝の曲げ伸ばしといった役割を担っていますが、中心となるのが大腿四頭筋だからです。

世界的にもその効果を示すエビデンス(証拠)は数多。イランの大学が、変形性膝関節症患者を対象とし、大腿四頭筋を含む膝周りの筋肉を鍛える運動療法を実施したそう[1]。1か月後、3か月後、12か月後に効果を測定したところ、膝の痛みが大幅に軽減されただけでなく、機能障害、歩行、階段昇降、起立と、日常生活の大部分における動作の改善も顕著に見られたと言います。

痛みを緩和し筋力強化を補助

膝周りの筋力を強化することが大切だと理解はできても、膝の痛みが強ければ運動に前向きにはなれないでしょう。痛みのため動かなくなって筋力が衰え、さらに痛みが増してしまうという悪循環は、絶対に避けなければなりません。そのような状況を改善するのに、薬物療法や装具療法、物理療法などが役立ちます。

薬物療法の代表的なものが、NSAIDs(エヌセイズ)と呼ばれる、非ステロイド系消炎鎮痛薬。服用・外用することで関節内の炎症を抑え、痛みを緩和する効果があります。ただ、痛みの緩和に優れた効果を示す一方、高齢者や胃腸の弱い方などは使い方への配慮が必要です。一般的にはNSAIDsの処方が多いですが、長期使用による副作用を防ぐ目的で、オピオイドやトラムセットといった、やや強めの薬剤に切り替えて処方するケースもあります。

また、薬物療法として、膝関節へのヒアルロン酸注射やステロイド注射(注射の記事へリンク)も行われます。特にヒアルロン酸注射は副作用も少なく、整形外科領域では非常にポピュラーな治療。活動性が高く、運動や重労働を希望する患者さまには、活動前に痛みを予防する意味で行うこともあります。ステロイド注射は用法・容量などがやや複雑であることから、ヒアルロン酸注射ほどは推奨していません。

[詳細]ヒアルロン酸とステロイド~変形性膝関節症の注射は何がいいのか?~

装具療法や物理療法は、整形外科のリハビリテーション科において行われることが多いでしょう。装具療法の代表的なものが、膝を支える器具の装着や足底板(インソール)の使用で、膝にかかる負荷のバランスを安定させる効果が期待できます。物理療法は、膝へ電気刺激を与えたり、温めて血行を良くしたりするもの。これらは、いずれも症状を緩和させる対症療法で、とりわけ痛みによる不活動状況を作り出さないことが共通の目的です。

[詳細]変形性膝関節症の運動療法【その効果とトレーニングメニューを公開】

手術療法は納得した上で選択を

一般的に、手術を検討する目安としては変形性膝関節症のグレード3〜4(進行期から末期)、あるいは6ヶ月間の保存療法で効果が見られない場合です。ただ前述の通り、手術となると、多かれ少なかれ患者さまの身体へ侵襲が出てきます。そのため、医師としてもむやみに勧めることはしません。患者さまも、手術を受ける上でのメリットやデメリットをしっかりと理解した上で、納得して選択することが大切です。

手術は3種類

適応となる手術には、関節鏡視下手術(デブリドマン)、骨切り術、人工膝関節置換術の3種類があります。

変形性膝関節症の3つの手術

変形性膝関節症になると、軟骨の毛羽立ちや、すり減りで生じた欠片によって、関節内の状態が悪化します。その整えるために関節鏡視下手術が行われることがあります。これは、膝に小さな穴を開けて内視鏡と器具を挿入し、損傷した軟骨片を取り除く手術。早期であれば効果が見込めますが、病気の進行に伴って、ほとんど意味をなさなくなってしまいます。

O脚やX脚が進行した場合に適応となるのが骨切り術で、高位脛骨骨切り術と大腿骨遠位骨切り術があります。すねの脛骨、あるいは大腿骨の低い位置を切って膝関節で骨が向き合う角度を調節し、荷重バランスを整える手術です。自身の関節を残すことができるため、活動性の高く、スポーツや重労働を希望される患者さまにはよく行われます。変形性膝関節症の進行を完全に食い止めることはできませんが、この手術を受けて人工関節を回避できた方も、中にはいらっしゃいます。

[詳細]膝の骨切り術とは〜自分の関節を残すための選択〜

末期になると、上記のような手術は適応できなくなってしまいます。一般的に、この段階では膝関節を人工物と取り換える人工膝関節置換術が標準治療。単顆置換術と全置換術の2種類があり、それぞれ損傷してしまった骨の範囲によって使い分けられます。痛みが消失し、日常生活もスムーズに行えるようになることから満足度も高い[2]手術ですが、自身の関節を失うことに抵抗がある人も多いでしょう。「こうなるために手術を受けたい」という明確な理想や意図を持って選ぶことが重要です。

[詳細]【人工膝関節について】手術方法と、決断前に考えてほしいこと

再生医療という手段も

「病気の進行を遅らせる」のに有効な手段となり得るのが、再生医療です。骨切り術や人工関節置換術のようにメスで膝を大きく切開する必要がないため、こちらも保存療法の一つと言えるでしょう。自分の身体から採取した血液や細胞を用いることから、副作用や拒絶反応がほとんど見られないのも特徴です。

近年、様々な医療機関で熱心に研究されていますが、変形性膝関節症に用いられるものもいくつかあります。ただし、以下に挙げる再生医療は保険診療の保存療法とは異なり、現時点では自由診療です。

血液・脂肪を用いる治療

2018年12月現在、変形性膝関節症には、血液や脂肪を利用した再生医療が適応可能です。血液を使ったものが、PRP治療。自己血液の中の血小板という成分が含む成長因子に着目した治療法で、損傷した組織を修復する作用や、関節内の炎症を抑えて痛みを緩和する作用があります。当院で扱っているのは、PRPに含まれる成長因子を高濃度に加工したPRP-FD注射です。

[詳しくはこちらが参考にしていただけます]
PRP療法が膝の痛みに果たす役割とは?

また、脂肪を用いたものが脂肪由来幹細胞治療。腹部などの脂肪を採取し、その中に含まれる脂肪由来幹細胞を取り出して、膝に注入する治療です。脂肪由来幹細胞は特定の細胞に分化する能力を備えており、こちらも炎症抑制、鎮痛の効果が期待できます。脂肪由来幹細胞を培養(増やすこと)して行う培養幹細胞治療は、当院で提供している治療です。

[詳しくはこちらが参考にしていただけます]
膝の幹細胞治療について、培養・非培養の効果を比較検証

再生医療と言うと、最新の技術を駆使しているイメージが先行してしまいます。手術と天秤にかけるようなもの、と考えている方も多いかもしれませんが、早い段階で受けていただくことで、より効果は高まると考えており、手術と言われる前に手を打ちたいという段階の方に特におすすめしています。ただ、この治療においても、患者さまのこだわりを重視。どうしても手術ではない方法で治療したいというご要望には、可能な限りお応えしたいと考えています。

キーワードは「患者さまの理想・こだわり」

変形性膝関節症の原因についての記事でも言及しましたが、この病気を発症した患者さまの多くは、ある程度の年齢を重ねていらっしゃいます。ですから、診断を下した際には「やっぱりそうか」といった反応をされる方が多い印象です。記事を書いていてふと思ったのですが、診断の際に患者さまから「この病気は完治しますか?」という質問を受けたことは、これまで一度もありませんでした。肩や腰などにも同様のことが言えますが、加齢に伴って膝が痛むというのは世間の常識になっているようで、治るのかどうかということに意識を置いている方は少ないのかもしれません。実際に、変形性膝関節症は一度かかってしまうと、完治することはない病気です。

ただ、そうした方にも必ずお伝えするのが「病気が進行するスピードを遅くすることが重要」「患者さまの理想によって、治療法は変わってくる」ということです。例えば旅行に行きたい、写真撮影に行きたいといった理想や、手術は絶対に受けたくないというこだわりがあれば、それを医師にお伝えください。どうしても手術を受けたくない人に医師が手術を勧めることはしないでしょうし、逆に「手術を受けることで理想が叶う」と判断した場合は、手術を勧めます。そうした二人三脚の姿勢を作ることが、治療の効果を最大限に発揮させることに繋がるのです。

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