変形性膝関節症について

OA KNEE

【論文解説】脂肪幹細胞による変形性膝関節症の治療成績

RELEASE:2018-10-09
UPDATE:

変形性膝関節症に対する再生医療のひとつ、脂肪由来幹細胞を活用した治療法。検討中の患者さまにとって気になるのは、やはり効果や安全性ではないでしょうか。海外でも臨床研究が盛んに行われており、脂肪由来幹細胞を含む間質血管細胞群(SVF)を用いた治療が主流であるアメリカだけを例にあげても、現在も7件の臨床試験が進行中です。私どもも、日々の治療成績を蓄積し、エビデンスを増やすべく研究結果の発表に努めております。

なかでも今回は、日本再生医療学会の機関誌「Regenerative Therapy 6」に掲載されました、脂肪由来幹細胞を含む間質血管細胞群(SVF)を用いた治療成績の論文について、ポイントを解説しましょう。

※現在、当クリニックでは幹細胞を培養する治療法を採用しております。SVF法との効果の違いについては「膝の幹細胞治療について、培養・非培養の効果を比較検証」の記事をご覧ください。

脂肪幹細胞治療の有効性を確認

ご紹介するのは「変形性膝関節症に対する間質血管細胞群の膝関節腔内投与による治療成績(Clinical results following intra-articular injection of adipose-derived Stromal vascular fraction cells in patients with osteoarthritis of the knee.)」という論文にまとめた内容です[1]。

13名の変形性膝関節症患者を対象とし、それぞれの両膝(合計26の膝)に脂肪幹細胞を含む間質血管細胞群(以降、SVFと表記)の注入を実施。注入後6ヶ月までフォローアップを行ったところ、その有効性が確認できました。SVF注入後の痛みスコア推移①効果測定のメソッドは、痛みの強さや日常生活への影響などを数値化するもので、スコアが高ければ痛みも強いということ。JKOM(変形性膝関節症患者機能評価尺度)やWOMAC(ウェスタンオンタリオとマクマスター大学変形性関節症指数)、VAS(視覚的アナログ尺度)が用いられます。SVFの注入後1ヶ月、6ヶ月のスコア推移は、それぞれ上記の通りでした。

 

SVF注入1ヶ月後に痛みの顕著な改善が見られ、6ヶ月後も継続

SVF注入後の痛みスコア推移②SVFの注入前から注入1ヶ月後にかけて、JKOMとWOMACによる痛みスコアは平均で12ほどの改善。VASの数値では23もの改善を示しています。長期的な効果が期待できるのも脂肪幹細胞治療の特長。注入から6ヶ月後の診察時も、この効果は継続しており、痛みスコアの平均値が上がることはありませんでした。これは、膝関節内でも長期間生き残るという幹細胞の特質によるものと考えられます。

 

SVFの注入から1ヶ月目以降、痛みスコアの有意な変化なし

SVF注入後の痛みスコア推移③SVFの注入直後から1ヶ月後にかけては、痛みスコアの改善が顕著でした。1ヶ月後から6ヶ月後にかけてもスコアに改善はありますが、これは統計学的に見て、特筆できるほど大きな数値とは言えません。

こうした結果から、脂肪幹細胞治療の効果を判断するのは1ヶ月程度が望ましいというのが当院の見解です。

 

最終的な痛みスコアの改善度は32〜40%

SVFの注入前と注入後の6ヶ月目を比較すると、痛みスコアは平均でJKOMが35%、WOMACが32%、疼痛VASが40%と、平均して3〜4割ほどの改善を見せたのです。ただ、これは6ヶ月までのフォローアップであり、より長期のデータは今後、必須。この論文でも「SVF注入6ヶ月以降もどれだけ効果が継続するのかといった、より長期的な経過観察が今後の課題である」と結論づけました。

 

重篤な副作用は見られず、安全性も確認

医薬品規制調和国際会議ガイドラインに定義されている、重篤な有害事象は報告されませんでした。痛みや腫れが見られることはありましたが、いずれも脂肪採取や注射という医療行為に起因するもの。SVFを投与することが直接的な原因となったわけではないと考えられます。いずれも数日間で緩和されていることから深刻な副作用とは言えず、脂肪幹細胞治療の安全性も確認されたと言えるでしょう。

 

変形性膝関節症の進行期・末期でも痛みが緩和

間質血管細胞群による治療成績・対象者データこの研究における対象は、K-L分類(変形性膝関節症の進行度を示す)グレードの3〜4、つまり進行期から末期にかけての患者で、13人中11人がグレード4でした。一般的に、グレード4はヒアルロン酸注射や鎮痛剤の服用といった保存療法では効果が見られないことも多く、人工膝関節置換術という大手術が勧められる目安となります。

そうした患者でも痛みスコアが改善したというのは、今後に大きな希望の見える研究結果です。また、変形性膝関節症が進行しすぎる前に治療を行えば、より高い効果が期待できることを示唆している、とも言えるでしょう。

 

末期になる前がベストだが……

変形性膝関節症に限ったことではありませんが、一般的にはどんな疾患であっても、進行するにつれ治療の効果は薄くなります。それは再生医療についても同様。骨と骨が激しくぶつかり合うまでに変形性膝関節症が進行すると、炎症を抑えて痛みを緩和するのが難しいケースも多くなります。当院では、脂肪幹細胞治療の効果が最も期待できるのはグレード2〜3、つまり進行期にさしかかったころと考えています。

とは言え、この研究において治療の対象となった変形性膝関節症のグレード3〜4は通常、医師から高位脛骨骨切り術や人工膝関節置換術を勧められる目安。繰り返しになりますが、そういった人でも痛みスコアが改善したというのは大きな進歩と言えます。VASスコアに関してはむしろ、注入前と1ヶ月後で有意な改善を見せました。末期だからと諦めて人工関節を選ぶのは、まだ早いかもしれません。

 

【掲載誌について】
日本再生医療学会の機関誌「Regenerative Therapy 6」

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