- RELEASE:
- UPDATE:2019-05-10
ひざ関節症クリニックでは、膝への培養幹細胞治療を提供しています。これは、ヒトの体内から取り出した幹細胞という細胞を特殊な技術によって増殖させ、痛みのある膝に投与するという治療法です。炎症を抑えて痛みを緩和させる効果があり、世界的にも注目が集まっています。
当院では変形性膝関節症を始めとする膝の疾患に培養幹細胞治療を行っていますが、リウマチ性の膝関節症にお悩みの方が受診されるケースもあります。変形性膝関節症に対する有効性は確認していますが、リウマチ性の膝関節症に対してはどうなのでしょうか。当院で行った治療の成績を学会にて発表しましたので、その内容をお話しします。
調査の背景と内容
変形性膝関節症の原因としては加齢や肥満などが多いですが、過去に負った病気やケガから引き起こされるケースもあります。その一例が、リウマチ。全身の関節に炎症や痛みが生じる疾患です。膝関節の炎症が長期間続くと、徐々に関節が破壊され、最悪の場合には歩行困難になってしまう恐れもあります。
リウマチの一般的な治療法は、生物学的製剤やメトトレキサートなどによる薬物療法ですが、炎症が残存する場合には局所治療として、炎症を抑える注射を膝関節に直接行うケースもあります。当院では、リウマチから関節症を発症し、炎症が長引く方を対象に培養幹細胞治療を行いました。冒頭でもお伝えしましたが、幹細胞には炎症を抑え、痛みを緩和させる効果があるからです。
この調査では、リウマチと膝関節症を併発している方(以下、リウマチのグループ)と、変形性膝関節症を単体で発症した方(以下、変形性膝関節症のグループ)に分け、培養幹細胞治療から6ヶ月間の効果を追跡調査しました。リウマチのグループは症例数が多くないため、症例数の多い変形性膝関節症のグループと比較し、どのような違いがあるのかを確認する意図があります。
VAS(痛みスコア)の推移
VASとは、痛みの度合いを数値化できる指標で、数値が高いほど痛みが強いことを意味しています。
この指標を用いて調査した痛みの推移は、リウマチのグループ(青)と、変形性膝関節症のグループ(オレンジ)で治療後の6ヶ月間、同様の動きを見せました。
KOOSによる効果の比較
KOOS(クース)とは、痛み以外にも運動機能や生活の質といった項目別に、膝の状態を確認できる指標です。VASと異なり、KOOSは数値が高いほど膝の状態が良いことを表します。効果の測定は、変形性膝関節症の進行度を表すグレード(リンク)別に行いました。本調査では、グレード2から4の方を対象としています。
※グラフ中の青がリウマチのグループ、オレンジが変形性膝関節症のグレード2(初期)、グレーが3(進行期)、黄色が4(末期)を示します。
痛み(Pain)
VASの推移では、リウマチのグループと変形性膝関節症のグループは同様の動きを見せていましたが、KOOSによる効果測定ではどうだったのか。結果として、リウマチのグループと変形性膝関節症のグレード2が同じ動きを見せました。グラフからは、両グループとも6ヶ月に渡ってスコアが上昇を続けていることが分かります。また改善度としては、注入後の早期のほうが高くなっています。
症状(Symptoms)
膝の腫れや水たまりなど、痛みとは別の症状を評価するのが、このスコア。この項目についても、リウマチのグループと変形性膝関節症のグレード2が同様の動きであることが分かります。グレード3では、3ヶ月後にスコアの低下が見られますが、その後は再び上昇。両グループの改善傾向は概ね近いと言えるでしょう。
日常生活動作(ADL)
日々の生活において必要な動作(ADL)の自由度を示すスコアです。変形性膝関節症のグループでは、3ヶ月後まですべてのグレードで数値が上昇し、改善傾向にあったことが分かります。
リウマチのグループでは、3ヶ月後まであまり変化は見られませんでしたが、6ヶ月後にかけては、治療前の数値よりやや改善が見られました。
運動機能(Sports)
スポーツやレクリエーションなどにおける膝の機能を評価する項目です。これまでの項目と違うのは、リウマチのグループで、治療3ヶ月後から6ヶ月後までの改善度が最も大きいということ。治療後の早期に痛みや症状が緩和されたことで、日常生活も改善し、続いて運動機能にも効果が表れたという傾向が考えられます。
生活の質(QOL)
趣味や仕事を楽しんでいるなど、人生に幸福を見出しているかを判断するために使われる指標です。リウマチのグループでは治療から3ヶ月後まで改善は見られませんが、3ヶ月後から6ヶ月後にかけて数値が大きく上昇。痛みや症状などとは異なり、治療からやや時間が経過したときにスコアが変動する傾向がありました。日常生活動作や運動機能が改善したことで、生活の質も上がったと感じる方が多いのではないかと考えられます。
リウマチと変形性膝関節症の改善傾向は近い
痛みや症状の緩和によってADLが改善し、運動機能やQOLも向上していったというKOOSの流れから分かるように、リウマチのグループと変形性膝関節症のグループで、培養幹細胞治療後の改善傾向は近いことが分かりました。VASによる痛みの推移が同様の動きであったことも勘案し、当院では、リウマチのグループの平均改善度は、変形性膝関節症のグレード3と同程度であるという見解に至りました。
今後は変形性膝関節症と同様、リウマチの進行度別にも、培養幹細胞治療の効果を調査していく必要があるでしょう。
治療・データ集計の対象
・2017年5月から2018年1月の間に、当院で培養幹細胞治療を受け、2018年7月までに投与後6ヶ月後の経過観察を終えた方
・変形性膝関節症を単体で発症したグループは、132人(185の膝)。内訳は、グレード2が16例、グレード3が69例、グレード4が47例
・リウマチを合併しているグループは、4人(6の膝)
・感染症・重篤な合併症のない方
本調査の限界
•関節鏡などで膝関節内を直視する画像がないこと
•リウマチについて、変形性膝関節症と比較するのに適した程度分類がないこと(今回はLarsen分類とK-L分類で比較)
•リウマチの評価尺度として適切なものがないため、変形性膝関節症用のKOOSを用いて行ったこと
•後ろ向き(過去を見る形)で行った調査であること