- RELEASE:2019-05-08
- UPDATE:
ひざ関節症クリニックでは、変形性膝関節症の治療として、PRP療法よりもPRP-FD注射のほうが高い効果を示すことを確認しました。このことは2019年3月に行われた第18回再生医療学会にて発表し、詳細データは、変形性膝関節症に対するPRP療法とPRP-FD注射の効果の比較にも掲載しています。
有効性の確認されたPRP-FD注射について、もう少し深く考察したのが、こちらの記事。再生医療学会にて発表した内容を、分かりやすくお伝えしたいと思います。
研究の背景
冒頭でもお話しした通り、当院ではひざの治療として、PRP-FD注射がPRP療法より高い効果を発揮することを確認しています。その中で、変形性膝関節症のグレードが進行していないほうが効果も高いというデータが得られました。診療を重ねる中で症例数も増加したことから、今回はこのデータについて検証を行います。
本研究では、KOOS(クース)という指標を用いて、痛みの度合いの他にも、日常生活の動作や生活の質に与えた変化、効果の持続期間など、さらに多くの観点から効果を検証しました。
変形性膝関節症のグレードについて
変形性膝関節症は進行性の疾患で、その進行度を診断する際にはグレードという指標が用いられることがあります。グレードは1から4までに分けられており、数字が大きくなるほど悪化していることを意味します。一般的には、進行に伴ってひざ関節の隙間も狭くなり、徐々に骨が変形。グレード4は骨と骨の隙間が完全に消失しているケースも多い、末期の状態です。
グレード別のKOOS推移
効果の測定にはKOOS(クース)という、世界的に用いられる評価基準を使用。42の項目で構成される質問票から、ひざの痛み、症状、運動機能、日常生活動作、生活の質という5つの項目について点数をつけ、評価するものです[1]。それぞれ数値が高いほど良好な状態であることを示します。
変形性膝関節症のグレードとグラフの色とが対応しており、グレード1が青、2がオレンジ、3が灰色、4が黄色となります。それぞれ、項目とグレード別に数値を見ていきましょう。
痛み(Pain)
この項目では、痛みの度合いが数値化されています。痛みは、患者さまの受診のきっかけとなる最も多い症状ですから、この項目は特に大きな指標になるでしょう。治療の12ヶ月後には、治療前と比べて全てのグレードで痛みが改善したことが分かりますが、改善度や効果の持続性は、グレードが低いケースで顕著でした。
症状(Symptoms)
腫れや可動域制限(動かしづらさ)など、痛み以外の症状が数値化されているのが、この項目。治療後3ヶ月目までは全てのグレードで数値が上昇し、症状が緩和されたことが分かります。6ヶ月、12ヶ月後にも改善傾向は確認されましたが、グレード4、つまり末期では効果の減弱が見られるケースがありました。
運動機能(Sports)
スポーツやレクリエーションなどの場における膝の機能を数値化する項目です。時間の経過とともにスコアが上昇しているのが分かりますが、こちらについても、グレードが進行していないほうが改善度も大きいという結果になりました。この項目が改善した患者さまからは「空手の練習を再開できた」とか「またゴルフができるようになった」といった声が多く聞かれています。
日常生活動作(ADL)
更衣、排泄、階段昇降など、私たちが日常で行う動作をまとめた言葉をADLと言います。この項目の数値が低いということは、日常生活にも大きな支障が出ているということになります。
治療から3ヶ月目までは、全てのグレードにおいて数値が上昇し、生活動作が改善傾向でした。グレード3まではその後も改善を続け、12ヶ月が経過しても90に近い数値を維持。グレード4になると、他のグレードより効果の減弱が早いケースも見られました。グレードが低いほど効果も高いことを示しています。
生活の質(QOL)
趣味や生きがいなど、自分らしい、人間らしい幸せな生活を送れているかを表す言葉として、生活の質(QOL)があります。例えば旅行を趣味としていた方が、膝が痛むため家から出なくなってしまったという場合、生活の質が下がっていると言えますし、逆に旅行を楽しめているのであれば、生活の質が上がっていると言えるでしょう。
グレード3までは治療後12ヶ月に渡って改善傾向でした。こちらの項目でも、グレードが低いほど改善度や効果の持続性が高いことが分かります。
重篤な副作用は確認されなかった
PRP-FD注射の治療件数が大きく増加しても、関節内の感染、癒着による関節可動域制限、血栓、敗血症、アレルギー反応、ショック反応、関節内出血といった重篤な副作用は確認されませんでした。ヒアルロン酸注射などと同様、注射後に一時的な腫れや痛みが生じることはありましたが、いずれも鎮痛薬の服用で対処可能でした。
膝の変形が軽いほど効果が高く、持続する
PRP-FD注射後、痛み、症状、運動機能、日常生活動作、生活の質のいずれについても、時間の経過に伴って改善するケースが多く見られました。また今回の研究からは、変形性膝関節症のグレードが進んでいないほうが、改善度や効果の持続性も高いことが分かります。グレード4(末期)では、グレード3までと比較して効果の減弱が早く、どの項目についても、膝の変形が強いグループが軽いグループを上回ることはありませんでした。従って、PRP-FD注射の効果はグレードとほぼ比例すると考えられます。
前回記事の繰り返しとなってしまいますが、やはりグレードが進行しすぎてしまう前に治療を受けるのが望ましいでしょう。進行していると効果がないというわけではありませんが、どのような疾患でも早期の治療が肝心です。
治療・データ集計の対象
以下の条件を満たす合計135人(185の膝)への治療結果をデータとして集計しました。
•変形性膝関節症の方。MRIやレントゲンによる診断を経て、グレード(図中でK-L分類Gradeと表記)の1から4に分類
•2016年7月以降に当院でPRP-FD注射を受け、6ヶ月以上の経過観察を終了した方
•2018年7月の時点で、院内患者データ管理表より全てのデータを抽出