- RELEASE:2018-10-25
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代表的な症状である「痛み」。これを読んでいる方は「今、この痛みをなんとかしたい」「痛みは今後どうなっていくんだろう」そんな不安をお持ちなのではないでしょうか。この記事では、変形性膝関節症の複雑な痛みのメカニズムと、改善方法を解説。従来の方法や新しい選択肢についても、当院の見解を交えお伝えします。
変形性膝関節症の痛みの原因は複雑
変形性膝関節症は膝の軟骨がすり減る疾患である、ということはご存知かと思います。では、なぜ変形性膝関節症で膝が痛くなるのでしょうか。実は、軟骨のすり減りが直接的な原因ではなく、すり減った軟骨が滑膜(膝関節を覆う組織)を刺激することで起きる炎症によるものなのです。
動き始めに違和感を感じるという程度だった痛みでも、次第に水たまりや腫れを伴うようになったり、安静時にも痛みが現れるようになったりします。また、関節にかかる負担のバランスが崩れて偏り、靭帯や筋肉といった関節外の痛みが生じることも多くなります。
また、当院の患者さまにお話を聞くと「痛みがこの先どうなるんだろう」といった不安が非常に大きいそう。人は不安やストレスを感じ続けると、痛みを感じにくくするドーパミンという脳内物質の分泌が抑制されます。これはすなわち、不安感の継続が痛みを増長させるということ。このように、あらゆる要因が複合的な痛みを生じさせることもあるのです。
膝の痛みに対する基本的な治療
変形性膝関節症はひとたび発症すると、完治はしません。というのも、現在の医療では、損傷した軟骨が元通りになるような治療法が確立されていないからです。そのため、この疾患の治療法は、基本的に「対症療法」となります。では一般的に、痛みへはどのように対処するのでしょうか。
グレード(進行度)が指標の一つに
変形性膝関節症は進行性。放置すると次第に軟骨のすり減りは増長し、膝関節が変形していきます。この疾患には、X線画像によって決定される「グレード」という、重症度を表す分類があります。グレードは1〜4の4段階で、それぞれが示すのは予備軍、初期、進行期、末期。治療方針を考える指標にもなるグレードは、変形性膝関節症の検査・診断において重要な役割を持ちます。
初期〜進行期は、まず保存療法
膝関節内に著しい変性が見られない、つまり初期〜進行期にかけての痛みに対しては、一般的には薬物療法や運動療法といった保存療法で緩和を試みることが多いでしょう。薬物療法ではNSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬)の服用や、ヒアルロン酸注射といった治療を行います。関節の動きを滑らかにしたり炎症を抑制したりする効果を持つヒアルロン酸の注射は、整形外科領域では非常に広く行われている治療の一つです。
また、運動療法では太もも前側の大腿四頭筋の訓練が基本となります。膝周りの筋肉には膝関節にかかる負荷を吸収する役割があり、特に重要なのが大腿四頭筋。適切に鍛えることで鎮痛薬と同等の効果があったとする研究報告も、海外の研究者から出されています[1]。
手術適応の目安は、グレード3以上
一般的に、変形性膝関節症で手術が適応となるのは、上述のような保存療法を6ヶ月継続しても効果が見られなかったり、症状や変形が悪化したりしてしまった場合です。グレードの目安としては、3以上。グレード4、つまり末期では人工膝関節置換術しか方法はありません。グレード3であれば、関節内の軟骨片などを取り除く関節鏡視下手術(デブリドマン)や、脛骨の上部を切り取って膝関節への負担を調節する骨切り術で対応することもあります。
痛みの強さとグレードは必ずしも比例しない
通常、変形性膝関節症が進行するにつれて痛みも強くなるケースが多いでしょう。しかし、必ずしも膝関節が大きく変形しているから痛みも強い、というわけではありません。逆も然りで、軟骨のすり減りが軽度であっても強い痛みを感じる方はいらっしゃいます。
繰り返しになりますが、痛みの主な原因は関節内に起こる炎症。その炎症を引き起こすのが、すり減った軟骨片による滑膜(膝関節を覆っている組織)への刺激です。そのため、変形性膝関節症が進行していなくても強い痛みが生じることはあるのです。
例えば、グレード2などの初期〜進行期初めでも、膝関節への負担が増えることで急な炎症を起こし、強い痛みが出るケースは考えられます。このような場合、まずは骨折や半月板損傷、関節軟骨の遊離体によるロッキング、骨壊死が生じていないかなど、変形性膝関節症以外の原因の有無を確認をした上で、内服薬の追加や変更、内服薬だけで対応していたケースならヒアルロン酸注射といった措置を検討します。
様々な痛みに、柔軟に対応できる治療が登場
従来、変形性膝関節症の治療法はグレードを指標としつつ、初期や進行期では薬物療法や運動療法など、末期が近づいてきたら骨切り術、末期になったら人工関節といったように、画一的な治療を取ることも少なくありませんでした。しかし近年、もっと柔軟な検討が可能となる治療法が臨床応用されるようになりました。それが、再生医療を始めとする先進的な治療法です。
[詳細]【自分の脂肪と血液で治療】変形性膝関節症の再生医療の効果と安全性
例えば現状で多いのが、膝の痛みに「薬や注射が効かない」とお悩みの方が、手術しか選べず困っているケースです。こうした場合でも、培養幹細胞治療(※1)やPRP-FD注射(※2)といった抗炎症や疼痛抑制の作用を持つ治療法によって、改善が期待できることを確認しています。
さらに言えば、変形性膝関節症と診断されるグレード2以上であれば、再生医療は適応可能です。そのため、初期〜進行期に強い痛みが生じた場合にも、適応となる可能性は高いと考えられます。一方、当院の患者さまには「医師から手術を勧められたけれど、決心できない。だけどやっぱり痛みはつらい」という方もいらっしゃいます。末期まで進行していると効果が得られにくくはなってしまいますが、グレードが低ければ効果を得られやすいのは事実。どんな病気の治療も、早ければ早いほど期待できる効果が大きくなるのと同様です。そのため、当院でも変形性膝関節症が末期に至る前の再生医療を推奨しています。
再生医療の登場によって、変形性膝関節症のさまざまな痛みに対し、従来の治療法も交えて幅広く選択することが可能になりました。自分の痛みとしっかり向き合い、どう治療していくのかを考えていただきたいと思います。
※1 培養幹細胞治療……脂肪から取り出した幹細胞を培養し、膝関節に注入する治療法。
※2 PRP-FD注射……血液中に含まれる、傷ついた組織の修復を促す成長因子を取り出して高濃度にし、膝関節に注入する治療法。
なぜ当院は再生医療を提供するのか
膝の痛みを我慢するというのはとてもつらいこと。物理的な苦痛に加え、家事や仕事、人生の楽しみがままならなくなるという精神的な苦痛も伴います。そんな変形性膝関節症でいま生じている痛みを「手術以外の方法で今どうにかしたい」という方があきらめなくてもいいように、私たちはこういった先進的な治療法を提案しているのです。
もし膝の痛みにお悩みなら、一度ご相談ください。X線画像によるグレードだけでは分からない膝の状態を、MRIなどを用いてより細かく診断し、的確な治療法のアドバイスを差し上げます。