変形性膝関節症について

OA KNEE

膝の幹細胞治療について、培養・非培養の効果を比較検証

RELEASE:2019-08-19
UPDATE:

変形性膝関節症に対する再生医療「幹細胞治療」は、ヒトの持つ幹細胞の働きで膝の痛みや機能を改善するという治療法です。中には幹細胞を培養するという工程を取っている医療機関もあり、当院もその一つ。しかし、幹細胞を培養することで治療の効果がどうなるのか、患者さまにとって分かりづらい部分もあるでしょう。

実際に、これまで幹細胞の培養・非培養を比較した研究や報告はありませんでした。そこで、幹細胞を培養する治療・培養しない治療の両方を行ってきたひざ関節症クリニックが、培養と非培養で効果の違いを検証。2019年3月の第18回再生医療学会にて発表した内容をこちらでお伝えします。幹細胞治療を検討しているという方がいらっしゃったら、参考にしてみてください。

なお、この研究報告は、整形外科領域において絶大な影響度を持つ医学誌「アメリカン・ジャーナル・オブ・スポーツ・メディシン」にも掲載されました[1]。

幹細胞治療とは

ヒトの体内には幹細胞と呼ばれる細胞があり、軟骨や骨、血管、筋肉といったさまざまな細胞に分化する性質を持っています。このことから幹細胞は、失った組織や機能を取り戻すうえで重要な要素になると再生医療業界で期待されてきました。変形性膝関節症の治療においても、抗炎症や痛みの緩和といった幹細胞の作用が有効とされており、痛みや関節の機能を改善する方法として、幹細胞治療が世界的に広まりつつあるのです。

幹細胞は脂肪、滑膜、骨髄などから得られますが、中でも脂肪由来の幹細胞がよく用いられています。少ない採取量で多くの幹細胞を得られるためです。

培養・非培養で治療の流れが異なる

まず腹部から脂肪を採取します。当院では幹細胞を培養するという工程を取るため、非培養より少ない量の脂肪採取(約20mL)で済みます。非培養の場合は、そのまま院内の設備を用いて幹細胞を抽出。当日中に膝へ投与します。

培養する場合、厚生労働省から認可を受けた細胞加工施設へ脂肪を送り、そこで幹細胞を抽出。およそ6週間かけて、幹細胞を1000万個以上まで培養したものを凍結保存し、希望のタイミングで膝へ投与するという流れです。

膝の幹細胞治療の流れ

KOOSの推移による比較

培養・非培養の効果を比較する際には、KOOS(クース)という指標を用いました。これは日常生活動作、痛み、生活の質、症状、運動機能という5項目から、膝の状態を評価することができる指標です。

各グラフの左半分が培養グループ、右半分が非培養グループです。それぞれ左から治療前、治療1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後の数値を記録しました。KOOSスコアは、数値が高いほど膝の状態が良好であることを意味します。

KOOSスコアに見る膝の状態の改善度

培養グループと非培養グループいずれも、治療後にKOOSの数値が上昇。膝の状態が改善していることが分かります。6ヶ月後の数値を見ると、培養・非培養に関係なく、全ての項目が治療前より改善していました。

では、培養グループと非培養グループの効果を比較するとどうだったのでしょうか。結果としては「症状」の項目(痛みは含まない)で、培養グループに有意な改善がありました。その他の項目ではそれほど大きな差は確認されませんでしたが、総合的に見ると、培養するほうがやや効果は高いと考えています。

VASの推移による比較

KOOSに加え、VASというスコアも効果測定に使用しました。これは痛みの度合いを数値化する指標で、KOOSとは異なり、数値が低いほど痛みも小さいことを意味します。

VASスコアに見る膝の状態の改善度

培養グループ、非培養グループのいずれも、治療から1ヶ月後には痛みが大きく改善していることが分かります。培養グループはその後も改善を続けたのに対し、非培養グループは治療から1ヶ月以降、数値は横ばいという結果になりました。

グレード別のVAS推移

変形性膝関節症の進行度を示す指標をグレードと言い、数字が大きくなるほど進行していることを意味します。今回の研究では、グレード2、3、4の方を対象として調査を行ったため、そのグレード別にも分類し、痛みスコアの推移を測定しました。

各グラフの左半分が培養グループ、右半分が非培養グループの結果です。それぞれ治療前、治療1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後の痛みスコアを記録しました。

グレード別のVASスコアの変化

この結果、培養グループ・非培養グループいずれもグレード2で平均改善率が最も高く、グレードが進行するにつれ効果は低下することが分かりました。改善率は培養グループのほうがやや高いというデータが確認できます。

グレード別の効果発現率

培養(n=42) 非培養(n=38)
グレード2 100%(4 / 4) 50%(2 / 4)
グレード3 64%(16 / 25) 58%(15 / 26)
グレード4 46%(6 / 13) 50%(4 / 8)
合計 61%(26 / 42) 55%(21 / 38)

グレード別に効果発現率を分類した上図でも、進行度と効果の関係が読み取れます。培養グループでは、グレード2で100%の方に効果が現れました。早期の治療でより高い効果を得られる可能性が高いと言えるでしょう。また、グレードの進行に伴い効果が低下していくことは、こちらのグラフからも確認できます。

非培養グループではグレード別の数値が不規則ですが、これには非培養の治療方法が関係しているという見解です。加工などの過程で、培養する場合よりも白血球が多く残存するため、一時的な抗炎症作用が強く、効果の発現にもややばらつきが生じると考えています。

研究結果から分かったこと

培養グループのほうが効果はやや高い
培養グループ、非培養グループともに膝の痛みや症状を改善しますが、総合的に見ると、培養グループの成績のほうがやや良好でした。特に、KOOSの症状スコア、VASの痛みスコアという2項目については、非培養グループよりも有意に改善していることが分かります。

変形性膝関節症が進行していないほうが効果も高い
グレード別の結果から分かるように、総合的に見ると、進行していないほうが効果も高い傾向があります。どのような疾患でも同様ですが、早めの治療が望ましいでしょう。

培養グループのほうが有害事象が少ない
培養グループ、非培養グループともに、治療後の拒否反応やショック症状といった重篤な副作用は確認していません。腫れや出血などの軽度な副作用も少数でしたが、培養グループでより少なく、特に腹部へ生じる副作用については有意に少ないことが分かりました。幹細胞を培養するという工程を取ることで必要な脂肪採取量も抑えられるため、そのぶん身体への負担も小さくなるのだと考えられます。

治療
培養(n=42) 非培養(n=38)
重篤な副作用
なし なし
膝への幹細胞注入時
感染 なし なし
腫脹 1(2%) 3(8%)
腹部からの脂肪採取時
感染 なし なし
術後の痛み なし 6(16%)
皮下出血 なし 5(13%)
脂肪硬結 2(5%) 12(32%)
合計 2(5%) 13(34%)

 


治療・データ集計の対象

培養グループは42人、59の膝(2017年5月以降に当院で培養幹細胞治療を受け、投与後6ヶ月の経過観察が終了した方)
非培養グループは38人、69の膝(2016年6月以降に当院で治療を受けた方)
変形性膝関節症のグレード2、3、4の方(臨床評価、MRIやX線を用いて確認)
重篤な合併症のない方
関節リウマチを合併している方は除外(別テーマ「リウマチ性の膝関節症に培養幹細胞治療は効果があるのか」として発表しました)

対象グループ 培養(n=42、59の膝) 非培養(n=38、69の膝)
年齢(歳) 70±9.1 73±9.1
性別(男 / 女) 9 / 33 7 / 31
身長(cm) 156.8±7.7 155.7±8.4
体重(kg) 61.4±10.9 60.7±11.4
BMI(kg / m2) 24.8±2.0 24.8±1.9
グレード 2 4 4
     3 25 26
     4 13 8
罹病期間(年) 6.9±5.0 7.4±6.4
膝オペ歴(関節鏡) 6 6
細胞数 1275±290万幹細胞 非培養のため計測なし

 

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